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東京地方裁判所 平成7年(ワ)1188号 判決

主文

一  被告は原告に対し、一〇八五万三七六六円及びうち七二四万三九三三円に対する平成七年二月七日から、うち六七万八四二〇円に対する平成七年四月一日から、うち二九三万一四一三円に対する平成八年四月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告と被告間の別紙物件目録記載二の土地についての賃貸借契約における賃料が、平成八年四月一日から同月五日までは一か月六九万七一〇〇円、同月六日から平成九年三月三一日までは一か月七〇万四四〇〇円であることを確認する。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  被告は原告に対し、一七七六万八八六〇円及びうち一一四五万二〇〇〇円に対する平成七年二月七日から、うち一一八万九〇二〇円に対する平成七年四月一日から、うち五一二万七八四〇円に対する平成八年四月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告と被告間の別紙物件目録記載二の土地についての賃貸借契約における賃料が、平成八年四月一日から平成九年三月三一日までは一か月八九万八〇一二円であることを確認する。

第二  事案の概要

一  争いのない事実等

1 原告は被告に対し、昭和三四年八月一〇日、別紙物件目録記載二の土地(以下「本件土地」という。)を、賃貸借期間三〇年、賃料一か月一万四四〇〇円、堅固建物所有目的の約定で貸し渡した(以下「本件賃貸借契約」という。)。

なお、その後の裁判上の和解により、本件賃貸借契約は、平成元年八月一〇日から満三〇年の期間に更新された。

2 本件賃貸借契約に基づく賃料(以下「本件賃料」という。)は順次増額され、その主なものとして、昭和四六年四月以降一か月五万円に、調停により昭和五五年一月以降二〇万三〇〇〇円に、裁判上の和解により平成二年七月一日以降四五万二五六〇円となった。

3(一) 原告は被告に対し、平成三年五月一日、同年四月以降の本件賃料を一か月四九万七八二〇円に増額する旨の意思表示をしたが、被告はこれに応じず、従前の本件賃料四五万二五六〇円のみを支払っている。

(二) 原告は被告に対し、平成四年四月九日、同年四月以降の本件賃料を一か月七五万四五〇〇円に増額する旨の意思表示をしたが、被告はこれに応じず、従前の本件賃料四五万二五六〇円のみを支払っている。

(三) 原告は被告に対し、平成五年三月三〇日、同年三月以降の本件賃料を一か月七八万七六〇〇円に増額する旨の意思表示をしたが、被告はこれに応じず、従前の本件賃料四五万二五六〇円のみを支払っている。

(四) 原告は被告に対し、平成六年四月一七日、同年四月以降の本件賃料を一か月八四万八九〇〇円に増額する旨の意思表示をしたが、被告はこれに応じず、従前の本件賃料四五万二五六〇円のみを支払っている。

(五) 原告は被告に対し、平成七年四月六日、同年四月以降の本件賃料を一か月八七万九八八〇円に増額する旨の意思表示をしたが、被告はこれに応じず、従前の本件賃料四五万二五六〇円のみを支払っている。

(六) 原告は被告に対し、平成八年四月四日、同年四月以降の本件賃料を一か月八九万八〇一二円に増額する旨の意思表示をしたが、被告はこれに応じず、従前の本件賃料四五万二五六〇円のみを支払っている。

二  争点

原告から被告に対する各賃料増額請求時(到達時)における相当賃料額が幾らであるか。

第三  争点に対する判断

一  《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1 本件土地はJR池袋駅から直線距離にして約七〇メートル北西に所在し、通称「みずき通り」の北側に位置し、南側で幅員約一五メートルの、西側で幅員約八メートルの区道に面している角地で、南側間口約五・八メートル、西側間口約五メートルのほぼ台形の土地であり、同駅北口へ徒歩一分、東武池袋駅、東武百貨店にも近接する交通接近条件に極めて優れた地域にある。

また、本件土地は、物販、飲食店舗、金融機関店舗の立ち並ぶJR池袋駅西口駅前地域に所在し、その北側の背後地は酒場、パチンコ店などの遊技施設、映画館等の集まる歓楽街を形成し、客足の流動状況が極めて良好にして繁華性にも優れ、商勢盛んな高度商業地域である。

2 被告は、本件土地上に現況地下一階地上五階建の「ケンタッキーフライドチキン」等の入居する店舗ビル(鉄筋コンクリート造地下一階地上五階建店舗兼居宅三八五・一四平方メートル)を所有している。

二  本件土地の公租公課について

1 《証拠略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 本件土地は、別紙物件目録記載一の土地五一五・四九平方メートル(以下「全体土地」という。)のうち七三・七五平方メートルの土地であるところ、全体土地の北側に一一四・九七平方メートルの空き地が存在する。

全体土地のうち右空き地以外の部分四〇〇・五二平方メートルには、家屋番号二四番一--一・二四番一--三--六の一棟の建物及び二四番一--二の建物敷地として一体利用されており、右建物の住宅部分は四分の一以上二分の一未満であることから、課税の際の住宅用地の率は二分の一となり、すべて小規模住宅用地となる。

その結果、全体土地五一五・四九平方メートルのうち、小規模住宅用地は二〇〇・二六平方メートル[(五一五・四九平方メートル-一一四・九七平方メートル)÷二]、非住宅用地は三一五・二三平方メートル(二〇〇・二六平方メートル+一一四・九七平方メートル)となり、本件土地にかかる税額を算出するには、本件土地中に、観念上、非住宅用地と小規模住宅用地が前記の面積割合において含まれていると考えることになる。

2 ところで、平成二年度の非住宅用地の空き地部分一一四・九七平方メートルにかかる税額は、固定資産税につき四一七万七八二六円(一三億三八〇〇万五八四〇円×一一四・九七平方メートル÷五一五・四九平方メートル×一・四÷一〇〇、なお以下特に断らない限り小数点以下四捨五入とする。)、都市計画税につき八九万五二四八円(一三億三八〇〇万五〇〇〇円×一一四・九七平方メートル÷五一五・四九平方メートル×〇・三÷一〇〇)となり、その合計額は五〇七万三〇七四円となり、一方、全体土地の固定資産税一三二七万四二二六円と都市計画税三二三万四三一五円の合計額は一六五〇万八五四一円となるから、全体土地から空き地部分を除いた四〇〇・五二平方メートルの固定資産税及び都市計画税は一平方メートル当たり月額二三七九円(一六五〇万八五四一円-五〇七万三〇七四円)÷四〇〇・五二平方メートル÷一二か月)と計算される。

3 また、平成三年度の非住宅用地三一五・二三平方メートルにかかる税額は、固定資産税につき一二六〇万〇四四九円(非住宅固定資産税課税標準額九億〇〇〇三万二〇七八円×一・四÷一〇〇)、都市計画税につき二七〇万〇〇九六円(非住宅固定資産税課税標準額九億〇〇〇三万二〇七八円×〇・三÷一〇〇)となり、その合計額は一五三〇万〇五四五円となり、そうすると、非住宅用地三一五・二三平方メートルのうち空き地部分一一四・九七平方メートル分の固定資産税・都市計画税は五五八万〇三八一円(一五三〇万〇五四五円÷三一五・二三平方メートル×一一四・九七平方メートル)となる。一方、平成三年度の全体土地の固定資産税及び都市計画税の合計額は一八〇〇万五六二三円(一四五一万〇六九二円+三四九万四九三一円)となる。

よって、全体土地から非住宅用地の空き地部分一一四・九七平方メートルを除いた土地部分四〇〇・五二平方メートルの固定資産税及び都市計画税の合計額は一二四二万五二四二円(一八〇〇万五六二三円-五五八万〇三八一円)となり、一平方メートル当たり月額二五八五円と計算される(一二四二万五二四二円÷四〇〇・五二平方メートル÷一二か月)。

4(一) 平成四年度以降、小規模住宅用地の一部適用が廃止となり、すべてが非住宅用地の適用となったところ、平成四年度の全体土地の固定資産税及び都市計画税の合計額は二七五一万九七四三円であるから一平方メートル当たり月額四四四九円(二七五一万九七四三円÷五一五・四九平方メートル÷一二か月)となる。

(二) 平成五年度の全体土地の固定資産税及び都市計画税の合計額は二八〇七万一五七四円であるから一平方メートル当たり月額四五三八円(二八〇七万一五七四円÷五一五・四九平方メートル÷一二か月)となる。

(三) 平成六年度の全体土地の固定資産税及び都市計画税の合計額は三〇一七万六九四二円であるから一平方メートル当たり月額四八七八円(三〇一七万六九四二円÷五一五・四九平方メートル÷一二か月)となる。

(四) 平成七年度の全体土地の固定資産税及び都市計画税の合計額は三一六八万五七九〇円であるから一平方メートル当たり月額五一二二円(三一六八万五七九〇円÷五一五・四九平方メートル÷一二か月)となる。

(五) 平成八年度の全体土地の固定資産税及び都市計画税の合計額は三二四七万七九三四円であるから一平方メートル当たり月額五二五〇円(三一六八万五七九〇円÷五一五・四九平方メートル÷一二か月)となる。

5 また、地価税の創設により、原告はその課税義務を負うことになったところ、本件土地割合に対応する額は、平成四年度が月額一万七九五二円(一平方メートル当たり二四三円)、平成五年度が月額二万一五三七円(一平方メートル当たり二九二円)、平成六年度が一万一一六四円(一平方メートル当たり一五一円)、平成七年度が七五七九円(一平方メートル当たり一〇三円)となる。

三  以下本件土地の相当賃料について判断する。

1 前掲争いのない事実等に、《証拠略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 差額配分法による手法

(1) 平成三年五月一日時点

鑑定人藤谷孝鑑定(以下「本件鑑定」という。)によれば、取引事例比較法と時価公示標準価格を規準として、平成三年四月三〇日時点の本件土地の更地価格は一平方メートル当たり二四三〇万円(以下、一平方メートル当たりの価格で表示する。)となり、これは同年五月一日時点についても当てはまるといえる。

また、本件鑑定は、本件土地の利用容積率は約五二二パーセント(三八五・一四平方メートル÷七三・七五平方メートル)であるところ、法定(実効)容積率九〇〇パーセントの約五八パーセントの土地利用にすぎないといえ、減価率四〇パーセントと減価調整をすると基礎価格はおおよそ一四六〇万円(二四三〇万円×〇・六)となり、これから、期待利回りを二パーセントとみて、純賃料は月額約二万四三〇〇円(一四六〇万円×〇・〇二÷一二か月)としており、右算出方法は合理的なものであるといえる。

そして、前記二の3のとおり、平成三年度の本件土地の固定資産税及び都市計画税の合計額月額二五八五円を右純賃料に加えた実質賃料は二万六八八五円となり、平成二年の合意地代月額六一三六円(四五万二五六〇円÷七三・七五平方メートル)との差額は二万〇七四九円となる。

本件鑑定は、差額について公平の理念に基づき、折半して配当するとしており、その基準によれば、平成三年五月一日時点の賃料は一万六五一一円(二万〇七四九円÷二+六一三六円)となる。

(2) 平成四年四月九日時点

本件鑑定によれば、取引事例比較法と時価公示表示価格を基準として、平成四年四月七日時点の本件土地の更地価格は二二一〇万円であり、これは同月九日時点についても当てはまるといえる。

これを基に、前記(1)と同様の算出方法によれば、基礎価格は一三二六万円(二二一〇万円×〇・六)、純賃料は月額二万二一〇〇円となり、これに前記二の4(一)の平成四年度の固定資産税及び都市計画税四四四九円と前記二の5の地価税二四三円を加えた実質賃料は二万六七九二円、差額賃料は二万〇六五六円となり、本件鑑定が採用の折半の基準によれば、平成四年四月九日時点の賃料は一万六四六四円(二万〇六五六円÷二+六一三六円)となる。

なお、被告は、第一に、地価税は一般的に富裕税に近い税であり、地価高騰により資産格差を是正し、公平を期すために地主の負担額を増やし、過大な値上がり期待を防止し、地価の低下を実現させることを目的に課せられていること、第二に、地価税はある程度以上の土地等を保有する個人・法人に対し、その保有する土地等の総額から基礎控除をした額に対して税額が算定されるため、個々の土地との相関関係は極めて希薄であり、個々の土地ごとに地価税額を必要諸経費として地代に上乗せすることは理論的にも技術的にも困難であり、結局、地価税を地代算定に付加することは妥当ではないと主張する。しかしながら、地価税も土地等を保有していることによって課せられる公租であるといえ、現実にも、原告は本件土地を含む土地を所有することによって地価税を負担することになっているものであるから、原告が負担する地価税額のうち課税対象土地に対する本件土地に応じた額は本件土地を保有するための必要経費といわざるを得ず、地価税の創設趣旨が、土地の保有コストを引き上げ、土地保有の有利性を減縮して税負担の適正・公平の確保を図ることにあることからといって、地価税を土地保有の必要経費とみることが否定されるものではない。したがって、被告の右主張は採用しない。

(3) 平成五年三月三〇日時点

本件鑑定によれば、取引事例比較法と時価公示表示価格を基準として、平成五年三月二九日時点の本件土地の更地価格は一六六〇万円であり、これは同月三〇日時点についても当てはまるといえる。

これを基に、前記(1)と同様の算出方法によれば、基礎価格は九九六万円(一六六〇万円×〇・六)、純賃料は月額一万六六〇〇円となり、これに前記二の4(二)の平成五年度の固定資産税及び都市計画税四五三八円と前記二の5の地価税二九二円を加えた実質賃料は二万一四三〇円、差額賃料は一万五二九四円となり、本件鑑定が採用の折半の基準によれば、平成五年三月三〇日時点の賃料は一万三七八三円(一万五二九四円÷二+六一三六円)となる。

(4) 平成六年四月一七日時点

本件鑑定によれば、取引事例比較法と時価公示表示価格を基準として、平成六年四月一六日時点の本件土地の更地価格は一二三〇万円であり、これは同月一七日時点についても当てはまるといえる。

これを基に、前記(1)と同様の算出方法によれば、基礎価格は七三八万円(一二三〇万円×〇・六)、純賃料は月額一万二三〇〇円となり、これに前記二の4(三)の平成六年度の固定資産税及び都市計画税四八七八円と前記二の5の地価税一五一円を加えた実質賃料は一万七三二九円、差額賃料は一万一一九三円となり、本件鑑定が採用の折半の基準によれば、平成六年四月一七日時点の賃料は一万一七三三円(一万一一九三円÷二+六一三六円)となる。

(5) 平成七年四月六日時点

本件鑑定によれば、取引事例比較法と時価公示表示価格を基準として、平成七年四月五日時点の本件土地の更地価格は九四〇万円であり、これは同月六日時点についても当てはまるといえる。

これを基に、前記(1)と同様の算出方法によれば、基礎価格は五六四万円(九四〇万円×〇・六)、純賃料は月額九四〇〇円となり、これに前記二の4(四)の平成七年度の固定資産税及び都市計画税五一二二円と前記二の5の地価税一〇三円を加えた実質賃料は一万四六二五円、差額賃料は八四八九円となり、本件鑑定が採用の折半の基準によれば、平成六年四月六日時点の賃料は一万〇三八一円(八四八九円÷二+六一三六円)となる。

(6) 平成八年四月六日時点

本件鑑定においては、平成八年四月時点の更地価格の算出は行われていない。

しかしながら、本件鑑定における平成三年から平成八年にかけての更地価格をみると次のようになっている。

<1> 平成三年四月 二四三〇万円

<2> 平成四年四月 二二一〇万円(前年の約九〇・九パーセント)

<3> 平成五年三月 一六六〇万円(前年の約七五・一パーセント)

<4> 平成六年四月 一二三〇万円(前年の約七四・一パーセント)

<5> 平成七年四月 九四〇万円(前年の約七六・四パーセント)

一方、平成三年から平成八年にかけての時価公示標準地[豊島5--4]の公示価格は次のようになっている。

<1> 平成三年 一三四〇万円

<2> 平成四年 一二七〇万円(前年の約九四・八パーセント)

<3> 平成五年 九八一万円(前年の約七七・二パーセント)

<4> 平成六年 七〇八万円(前年の約七二・二パーセント)

<5> 平成七年 五五一万円(前年の約七七・八パーセント)

<6> 平成八年 四四一万円(前年の約八〇・〇パーセント)

以上の更地価格と時価公示標準値[豊島5--4]の公示価格とはほぼ同様の推移をみせていることを考慮すると、平成八年四月六日時点の更地価格は七五二万円(九四〇万円×〇・八)とすることに合理性が認められる。

また、本件においては、平成八年度の地価税額は明らかではない。しかしながら、本件土地に対応する地価税をみると、平成五年度二九二円、平成六年度一五一円(前年の約五一・七パーセント)、平成七年度一〇三円(前年の約六八・二パーセント)となっていること(なお、平成四年度は税率が〇・二パーセント、平成五年度以降が〇・三パーセントである。)、しかも原告保有の地価税対象土地はすべて本件土地周辺であること、前記のとおり、本件土地周辺にある時価公示標準値[豊島5--4]の公示価格は年々下降しており、平成七年から平成八年にかけては価格が前年の約八〇・〇パーセントになっていることを考慮すると、平成八年度の本件土地に対応する地価税は一平方メートル当たり月額約八二円(平成七年度の一〇三円×〇・八〇)に近い数値であると推認することができる(右数字は精確なものではないが、本件においては、他に平成八年度の地価税を算出する的確な方法がうかがわれないことから、以後右数字を使用する。)。

これらの数値を基に、前記(1)と同様の算出方法によれば、基礎価格は四五一万二〇〇〇円(七五二万円×〇・六)、純賃料は月額七五二〇円となり、これに前記二の4(五)の平成八年度の固定資産税及び都市計画税五二五〇円と前記推定地価税額八二円を加えた実質賃料は一万二八五二円、差額賃料は六七一六円(一万二八五二円-六一三六円)となり、本件鑑定が採用の折半の基準によれば、平成八年四月六日時点の賃料は九四九四円(六七一六円÷二+六一三六円)となる。

(二) 利回り法による手法

(1) 平成三年五月一日時点

平成二年五月時点の更地価格は、時価標準地価格等の推移に照らし、平成二年から平成三年にかけて本件土地周辺の時価が高値安定の時期にあったとみることができることから、平成二年四月三〇日時点の更地価格二四三〇万円(前記(一)の(1))と同額と評定することができ、右更地価格から減価率四〇パーセントの減価調整すると(前記(一)の(1))、平成二年五月の基礎価格はおおよそ一四六〇万円(二四三〇万円×〇・六)となる。

また、平成二年時の基礎賃料一平方メートル当たり月額六一三六円から本件土地の平成二年度の公租公課一平方メートル当たり月額二三七九円(前記二の2)を控除した上算出すると、一年分の純賃料は一平方メートル当たり四万五〇八四円となる[(六一三六円-二三七九円)×一二か月]。

そうすると、継続賃料利回り(合意利回り)は約〇・〇〇三(四万五〇八四円÷一四六〇万円)と算定される。

したがって、平成三年五月一日時の継続賃料は月額六二三五円(一平方メートル当たり、以下同じ)[一四六〇万円×〇・〇〇三÷一二か月+二五八五円(前記二の3の平成三年度の公租公課)]となる。

(2) 平成四年四月九日時点

平成四年四月九日時点の基礎価格一三二六万円(前記(一)の(2))を基に算出すると、八〇〇七円[一三二六万円×〇・〇〇三÷一二か月+四四四九円(前記二の4(一)の平成四年度の公租公課)+二四三円(前記二の5の平成四年度の地価税)]となる。

(3) 平成五年三月三〇日時点

平成五年三月三〇日時点の基礎価格九九六万円(前記(一)の(3))を基に算出すると、七三二〇円[九九六万円×〇・〇〇三÷一二か月+四五三八円(前記二の4(二)の平成五年度の公租公課)+二九二円(前記二の5の平成五年度の地価税)]となる。

(4) 平成六年四月一七日時点

平成六年四月一七日時点の基礎価格七三八万円(前記(一)の(4))を基に算出すると、六八七四円[七三八万円×〇・〇〇三÷一二か月+四八七八円(前記二の4(三)の平成六年度の公租公課)+一五一円(前記二の5の平成六年度の地価税)]となる。

(5) 平成七年四月六日時点

平成七年四月六日時点の基礎価格五六四万円(前記(一)の(5))を基に算出すると、六六三五円[五六四万円×〇・〇〇三÷一二か月+五一二二円(前記二の4(四)の平成七年度の公租公課)+一〇三円(前記二の5の平成七年度の地価税)]となる。

(6) 平成八年四月四日時点

平成八年四月四日時点の基礎価格四五一万二〇〇〇円を基に算出すると、六四六〇円[四五一万二〇〇〇円×〇・〇〇三÷一二か月+五二五〇円(前記二の4(五)の平成八年度の公租公課)+八二円(前記(一)の(6)の推定地価税額)]となる。

(三) スライド法による手法

消費者物価指数家賃(区部)は、平成二年を一〇〇とすると次のとおりに推移している。

<1> 平成二年 一〇〇・〇

<2> 平成三年 一〇三・三

<3> 平成四年 一〇六・五

<4> 平成五年 一〇九・三

<5> 平成六年 一一一・一

<6> 平成七年 一一二・五

<7> 平成八年 一一二・三

この消費者物価指数家賃(区部)の推移を、地代と関連性のある指数として採用して、スライド法による算定を行う。

(1) 平成三年五月一日時点

平成二年の合意賃料六一三六円を基礎にし、純賃料三七五七円[六一三六円-二三七九円(前記二の2の平成二年度の公租公課)]を求め、右純賃料に平成三年の指数を乗した上で平成三年度の公租公課を加えると、六四六六円[三七五七円×一・〇三三+二五八五円(前記二の3)]となる。

(2) 平成四年四月九日時点

前記(1)の平成二年の純賃料三七五七円に平成四年の指数を乗した上で平成四年度の公租公課を加えると、八六九三円[三七五七円×一・〇六五+四四四九円(前記二の4(一))+二四三円(前記二の5)]となる。

(3) 平成五年三月三〇日時点

前記(1)の平成二年の純賃料三七五七円に平成五年の指数を乗した上で平成五年度の公租公課を加えると、八九三六円[三七五七円×一・〇九三+四五三八円(前記二の4(二))+二九二円(前記二の5)]となる。

(4) 平成六年四月一七日時点

前記(1)の平成二年の純賃料三七五七円に平成六年の指数を乗した上で平成六年度の公租公課を加えると、九二〇三円[三七五七円×一・一一一+四八七八円(前記二の4(三))+一五一円(前記二の5)]となる。

(5) 平成七年四月六日時点

前記(1)の平成二年の純賃料三七五七円に平成七年の指数を乗した上で平成七年度の公租公課を加えると、九四五二円[三七五七円×一・一二五+五一二二円(前記二の4(四))+一〇三円(前記二の5)]となる。

(6) 平成八年四月四日時点

前記(1)の平成二年の純賃料三七五七円に平成八年の指数を乗した上で平成八年度の公租公課を加えると、九五五一円[三七五七円×一・一二三+五二五〇円(前記二の4(五))+八二円(前記(一)の(6)]となる。

2 以上によれば、各資産賃料は次のとおりとなる。

(一) 平成三年五月一日時点

(1)差額配分法 一万六五一一円

(2) 利回り法 六二三五円

(3) スライド法 六四六六円

(二) 平成四年四月九日時点

(1) 差額配分法 一万六四六四円

(2) 利回り法 八〇〇七円

(3) スライド法 八六九三円

(三) 平成五年三月三〇日時点

(1) 差額配分法 一万三七八三円

(2) 利回り法 七三二〇円

(3) スライド法 八九三六円

(四) 平成六年四月一七日時点

(1) 差額配分法 一万一七三三円

(2) 利回り法 六八七四円

(3) スライド法 九二〇三円

(五) 平成七年四月六日時点

(1) 差額配分法 一万〇八三一円

(2) 利回り法 六六三五円

(3) スライド法 九四五二円

(六) 平成八年四月四日時点

(1) 差額配分法 九四九四円

(2) 利回り法 六四六〇円

(3) スライド法 九五五一円

3(一) 本件鑑定においては、利回り法は賃料が前回合意時(平成二年)の元本に対して一定の利回りにあることを基礎に、継続賃料を求める手法であるところ、この手法は、数年前の地価高騰時に求めた低い合意利回りを、地価下落時の元本に乗じて継続賃料を求めるのであるから、採用することが適当でないとし(ただし、本鑑定が利回り法により求めた各具体的な賃料額は、平成二年度の公租公課額が前記認定と異なるため差異が生じている。)、これは肯首し得るところである。

また、差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料と実際支払賃料との間に発生している差額を貸主と借主に配分して試算賃料を求める手法であり、本件では、右実質賃料を各基準時の更地価格を基に算出している。ところで、正当な土地価格の変動を賃料に反映させることはそれなりの合理性があるが、一方、特に首都圏におけるバブル景気による投機的因子による時価の高騰と、その後の反動としてのバブル景気の崩壊による地価の下落は、土地の効用(収益力)の増減によって生じたものではなく、このような投機的価格部分に対応するものが相当賃料額に紛れ込むことを防止する必要があるところ、本件の差額配分法による平成三年五月時点の算定額一万六五一一円がその前年の合意賃料六一三六円の実に約二・七倍と現実離れした数値となっており(なお、差額配分法における賃貸人対賃借人の差額配分の割合を仮に一対二としても、平成三年五月時点の賃料は一万三〇五二円と前年の合意賃料の二倍以上となり、やはり現実離れしているといえる。)、しかも、本件賃貸借契約の賃貸借が昭和三四年から平成三年まで三〇年間以上も継続してきたものであることをも併せ考慮すると、本件の継続賃料を求める方法として、本件鑑定の差額配分法を併用することは相当性において問題があると考えられる(本件鑑定は、本件土地の更地価格につき、平成二年及び平成三年をほぼ同額とし、その後下落し続けているとするところ、《証拠略》によれば、平成二年、三年ころは地価が最も高い時期であり、右更地価格には投機的因子による地価高騰部分が相当程度加わっていることが容易に認められ、その後の地価の下落の過程においても、未だこの投機的因子の部分が残存しているものと推認されるから、本件での差額配分法による算定賃料には投機的因子による影響が相当程度紛れ込んでいると考えられる。)。

これに対し、スライド法は、純賃料を各種指数によってスライドし、これに公租公課を加算して求める手法で、継続賃料を求める手法としては適切なものといえ、また、本件では地代と関連性があると考えられる消費者物価指数家賃(区部)指数を採用しており、合理的なものであるといえる。

(二) ところで、本件鑑定は、前記の差額配分法とスライド法による各算定額を同率で調整して相当賃料を算出するとしているが、このような算出方法は、前記のとおりの本件における差額配分法を採用することの問題からして相当な方法とは認められず、結局、本件では継続賃料を求める手法として適切といえるスライド法により相当賃料を算出するのが合理的である。

そうすると、各基準時における月額賃料は次の額と認めるのが相当である。

(1) 平成三年五月一日時点

四七万六八〇〇円

(一〇〇円未満四捨五入、以下同じ)

(六四六六円×七三・七五平方メートル)

(2) 平成四年四月九日時点

六四万一一〇〇円

(八六九三円×七三・七五平方メートル)

(3) 平成五年三月三〇日時点

六五万九〇〇〇円

(八九三六円×七三・七五平方メートル)

(4) 平成六年四月一七日時点

六七万八七〇〇円

(九二〇三円×七三・七五平方メートル)

(5) 平成七年四月六日時点

六九万七一〇〇円

(九四五二円×七三・七五平方メートル)

(6) 平成八年四月四日時点

七〇万四四〇〇円

(九五五一円×七三・七五平方メートル)

(三) なお、本件鑑定では、平成三年から平成六年の支払賃料については各時点ごとに試算賃料を調整することによって適正額を求めることが困難であるとして、平成二年の合意賃料額と平成七年の算出賃料額から、この間の上昇率を平均化して各年度の賃料額を算出しているが、各年ごとに基礎となる数値を基にして各年ごとの賃料を算定しながら(スライド法の算出の基礎とした消費者物価指数家賃(区部)や差額配分法の算出の基礎とした更地価格及び公租公課が毎年同率で推移しているものでないことはこれまでの検討により明らかである。)、各時点ごとに試算賃料を調整することによって適正額を求めることが困難であるとの理由をもって、その賃料の変化を平均化することは相当とは認めがたいから(なお、このように賃料の変化を平均化した算出方法によらざるを得ないこと自体が、本件においては、差額配分法とスライド法による各算定額を同率で調整して相当賃料を算出する方法が相当でないことを示しているともいえる。)、右算定方法は採用しない。

(四) また、原告は、固定資産税及び都市計画税の上昇率をもって、賃料値上げの上昇率とすべきと主張するが、右税額は差額配分法及び利回り法では賃料算定の一要素であり、また、右税額の上昇が賃料算定に影響を与えることもまた明らかであるが、固定資産税及び都市計画税等の公租公課だけが賃料を決める絶対の条件ではないから、その増加率をもって賃料の増額率とすべきとの原告の主張は相当ではない。

四  よって、原告が求める増額となった相当賃料と現実に被告が支払っている賃料(月額四五万二五六〇円)との差額は、次のとおりとなる。

1 平成三年五月一日から平成四年四月三〇日まで

二九万〇八八〇円[(四七万六八〇〇円-四五万二五六〇円)×一二か月]

2 平成四年五月一日から平成五年三月三一日まで

二四五万一〇二〇円[(六四万一一〇〇円-四五万二五六〇円)×一三か月]

3 平成五年四月一日から平成六年四月一六日まで

二五八万七三八一円[(六五万九〇〇〇円-四五万二五六〇円)×(一二か月+一六日÷三〇日)]

4 平成六年四月一七日(原告の賃料増額請求が被告に到達して相当賃料額に増額された日)から同年一二月三一日まで

一九一万四六五二円[(六七万八七〇〇円-四五万二五六〇円)×(一四日÷三〇日+八か月)]

5 平成七年一月一日から同年三月三一日まで

六七万八四二〇円[(六七万八七〇〇円-四五万二五六〇円)×三か月]

6 平成七年四月一日から同月五日まで

三万七六九〇円[(六七万八七〇〇円-四五万二五六〇円)×五日÷三〇日]

7 平成七年四月六日から平成八年三月三一日まで

二八九万三七二三円[(六九万七一〇〇円-四五万二五六〇円)×(二五日÷三〇日+一一か月)]

1ないし7の合計一〇八五万三七六六円(うち1ないし4の合計七二四万三九三三円、6及び7の合計二九三万一四一三円)

第四  結論

よって、平成三年五月一日から平成八年三月三一日までの過去の差額賃料を求める原告の請求は、その合計一〇八五万三七六六円及びうち平成三年五月一日から平成六年一二月三一日までの差額賃料合計七二四万三九三三円に対する支払期日の経過した後で記録上明らかな訴状送達の日である平成七年二月六日の翌日である同月七日から、うち平成七年一月一日から同年三月三一日までの差額賃料六七万八四二〇円に対する最後の支払期日の翌日である平成七年四月一日から、うち平成七年四月一日から平成八年三月三一日までの差額賃料二九三万一四一三円に対する最後の支払期日の翌日である平成八年四月一日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、また、本件賃貸借契約の平成八年四月一日以降の賃料額の確認を求める原告の請求は、平成八年四月一日から同月五日までは一か月六九万七一〇〇円、同月六日から平成九年三月三一日までは一か月七〇万四四〇〇円であることを確認する限度で理由がある。

(裁判官 本多知成)

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